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ネットゲーム、シルバーレインにて銀誓館学園の生徒達と、その背後の日記。
July / 10 Thu 01:58 ×
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July / 16 Wed 19:00 ×
見えない先も、ちょっとは見ようとしなくちゃ。


BGM YUKI「センチメンタルジャーニー」

「でさ、遊ちゃん、ちょっと歌ってみない?」
いつもの楽しそうな口調で布を合わせながら、彼女は話す。こちらもいつもと同じようにテンポの遅い返事をする。
「へ?」
「だぁからぁ、人前で歌ってみないかって言ってんの。人の話聞いてなかった?」
「う、ううん、聞いてたよ。で、でも何で?素人がそんなとこ出て、だ、大丈夫なの?と、というか人前でとか、僕、無理だとおも」
そこまで言いかけて、クーラーの効いた部屋では下着だけだと寒いせいか、けして可愛くないくしゃみをする。
弟みたいに大好きな友達へのプレゼントの完成品を取りにきただけだったのに、結局いつものように子ども服の試作品を着せられている。
「オリジナルの曲じゃなくていいの、ほら、昔の古い歌とか歌謡曲とか、遊ちゃん嫌いじゃないでしょ?レストランって言っても、ほんっとちっさなとこだし、野次飛ばすような人は居ないわよぅ」
「え、えええ」
普段の主な観客といえば、そんなに多くはないけれど心の許せる友達や、命を張り合う冒険仲間、生き物じゃなくなってしまった彼ら。そのことを、彼女は知っている訳がない。
結構な人見知りと小心者の自分がいつものように歌える訳がない。というか、見ず知らずの人達を満足させられるような、そんな実力があるとは思えない。
「ダーリンの頼みなのよぅ、私との仲じゃない?頼まれてくれないかなぁ。遊ちゃんしか居ないのよ、お父さんには私からお願いしとくから!決心できたらいつでもいいから言ってちょーだい!ね!」
「う、うーん」
ひとまず、考えてみるとだけ言って、その場をなんとなくやり過ごした。

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『高校を卒業したら、能力者もやめてくれないか』
アパートに帰ってきてから久しぶりに聞いた父の声は、留守番電話でも相変わらず淡々としていた。
開けた窓から風が吹くたびに、壁に掛けられた元のデザインとは随分離れた改造をされている制服が揺れる。
祖母の介入無しに祖父一人が彼女に頼むと、決まってレースやフリルの多い服で、少し可愛すぎる気がして自分には似合わないんじゃないかと思っていたけど、どんな服でも一度着るとなんとなくしっくり来るのだった。
そういえば祖父母がくれる服は基本的にスカートやワンピースが多かったのは、名前が男の子の響きだったことが影響してるのかもしれないと、ふと考える。
もう七月だ。この制服もそろそろクリーニングに出さないといけない。
鞄から筆記用具と教科書達を引っ張り出す。今日のテストの出来は悪くなくて、まだ迷っているけどある程度決めた進路先はなんとか合格ラインらしい。
『大学は行きたい所に行けばいい、好きなことをしなさい』
電話が再生し終わったはずの声と言葉が頭の中で回る。面接では、髪を染めないといけないかもしれないと担任の先生に言われた。銀誓館の校則が優しすぎたのだから、そのつもりでいる。
写真でしか見たことのない母とよく似た淡い金髪を、幼い時に褒めてくれた父の言葉が痛い。
『今度帰省する時に、また話そう』
「お盆、かなぁ」
当たり前の、普通の生き方を願うのは悪いことじゃないと思う。それは、幸せなのかもしれない。けど。
「困ったなぁ」
ぽつりぽつりと、独りの部屋。
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