ぽつぽつ、しとしと、夏の前に。
BGM 安藤裕子「ドラマチックレコード」
鎌倉は、もう梅雨に入っていたっけ。
ニュースは流し見、新聞もろくに読まないせいでよく思い出せない。
それでも近所の家の紫陽花が綺麗な花を咲かせていて、じめじめとした暑さがあるあたり、もう梅雨なのかもしれない。
「花」
「んぁ?」
「お願いが、あるのだけど」
最初は、テレビ画面の音の聞き間違いかと思った。この家ではいつも一番物静かな彼女が自分に頼みごとをするなんて、多分初めてだった。
「うぇ、あーうー」
「駄目かしら」
「え、いや、別に!で、何、お願いって」
彼女だけじゃなく、唐突に誰かに何か言われると、少しどうしていいか分からなくなるのはいつものことで。
大したことではないんだろうと思いながら話を聞く体勢に移る。いつもの長い髪を揺らしながら彼女は呟いたのは、一言。
「お小遣いを、貰いたいのだけど」
しばらく続く沈黙の中、色んな考えを巡らそうとしたけど、自分はそんなに沢山のことが思いつくような頭はしてなかったことに気付く。
「え?」
「少しお小遣いを、貰いたいの。駄目かしら」
「えっと、おこづかいっつーと」
「確か、年下の子どもに与える金銭のことを、言ったと思うわ」
流石の自分でもそれは分かる。分かるけど、それを彼女が自分にねだるということがよく分からなかった。
「うぁ、えーっと、なんか、欲しいもんでもあんのか?」
「ええ。新しい服が、必要で」
そう言われると確かに基本的に彼女は制服のままで、他の服というと、此処に来る前から着ていたごてごてのワンピースや、ゴーストタウンの拾い物だった。
薄い半そでとジーンズの自分とは正反対に、彼女が今着ている長袖のブラウスと長い暖かそうなスカートは、前に連れてった紫刻館で彼女が拾っていた服の気がする。
流石の彼女でも、暑いのは嫌いなんだろうか。ファイアフォックスだし。
「あー、まぁ、いいけど」
「ありがとう」
前に住んでいた場所で、どんな風に暮らしていたかは知らないけれど、女の子なんだからきっとおしゃれくらいしたいんだろう。
それに、最近は少しずつ嬉しいことや嫌なこと、自分が今どうしたいかを教えてくれるようになったのは、とても嬉しかったりする。
「で、いくらくらい?俺、あんまり女の子の服の値段とか、よくわかんねぇからさぁ」
「多分、二万円くらい」
「にっ!?」
大型のショッピングモールの安いところで買っている自分にとって、考えていない値段だった。
というか、最近はあまり身長も伸びないせいか、服自体買わなくて済んでいたけど。
「やっぱり、駄目かしら」
「え、いや、だいじょーぶ!」
多分一着じゃないんだろう、うん、多分そうだ。色々揃えたりしなきゃいけないはずだ。
多分自分に対して初めての頼みごとなのだし、そう考えれば安い方かもしれない。
無駄遣いすんなよと彼女に言いながら、まだ新しい質感の残る革の財布を引っ張り出して、お札を二枚引っ張り出す。
「ありがとう、大事に使うわ」
「どーいたしまして」
これまたやっぱりゴーストタウンで見つけたらしい、金持ちのおばさんが持つような派手な豹柄のサイフに、二万円を大事そうにしまう彼女は、どことなく嬉しそうに見えて、なんとなく自分も幸せだった。幸せだった、けど。
「誰が水着コンテスト出ていいなんて言ったんだよぅ!!」
「花が」
「言ってねぇよぅ!つーか、あの二万円ってもしかして」
「大事に、使ったわ」
「えええ!!!」
「天鳴さんが、涙目で、一緒に出てって、言うものだから」
「ゆうじ何やってんだよー!」
BGM 安藤裕子「ドラマチックレコード」
鎌倉は、もう梅雨に入っていたっけ。
ニュースは流し見、新聞もろくに読まないせいでよく思い出せない。
それでも近所の家の紫陽花が綺麗な花を咲かせていて、じめじめとした暑さがあるあたり、もう梅雨なのかもしれない。
「花」
「んぁ?」
「お願いが、あるのだけど」
最初は、テレビ画面の音の聞き間違いかと思った。この家ではいつも一番物静かな彼女が自分に頼みごとをするなんて、多分初めてだった。
「うぇ、あーうー」
「駄目かしら」
「え、いや、別に!で、何、お願いって」
彼女だけじゃなく、唐突に誰かに何か言われると、少しどうしていいか分からなくなるのはいつものことで。
大したことではないんだろうと思いながら話を聞く体勢に移る。いつもの長い髪を揺らしながら彼女は呟いたのは、一言。
「お小遣いを、貰いたいのだけど」
しばらく続く沈黙の中、色んな考えを巡らそうとしたけど、自分はそんなに沢山のことが思いつくような頭はしてなかったことに気付く。
「え?」
「少しお小遣いを、貰いたいの。駄目かしら」
「えっと、おこづかいっつーと」
「確か、年下の子どもに与える金銭のことを、言ったと思うわ」
流石の自分でもそれは分かる。分かるけど、それを彼女が自分にねだるということがよく分からなかった。
「うぁ、えーっと、なんか、欲しいもんでもあんのか?」
「ええ。新しい服が、必要で」
そう言われると確かに基本的に彼女は制服のままで、他の服というと、此処に来る前から着ていたごてごてのワンピースや、ゴーストタウンの拾い物だった。
薄い半そでとジーンズの自分とは正反対に、彼女が今着ている長袖のブラウスと長い暖かそうなスカートは、前に連れてった紫刻館で彼女が拾っていた服の気がする。
流石の彼女でも、暑いのは嫌いなんだろうか。ファイアフォックスだし。
「あー、まぁ、いいけど」
「ありがとう」
前に住んでいた場所で、どんな風に暮らしていたかは知らないけれど、女の子なんだからきっとおしゃれくらいしたいんだろう。
それに、最近は少しずつ嬉しいことや嫌なこと、自分が今どうしたいかを教えてくれるようになったのは、とても嬉しかったりする。
「で、いくらくらい?俺、あんまり女の子の服の値段とか、よくわかんねぇからさぁ」
「多分、二万円くらい」
「にっ!?」
大型のショッピングモールの安いところで買っている自分にとって、考えていない値段だった。
というか、最近はあまり身長も伸びないせいか、服自体買わなくて済んでいたけど。
「やっぱり、駄目かしら」
「え、いや、だいじょーぶ!」
多分一着じゃないんだろう、うん、多分そうだ。色々揃えたりしなきゃいけないはずだ。
多分自分に対して初めての頼みごとなのだし、そう考えれば安い方かもしれない。
無駄遣いすんなよと彼女に言いながら、まだ新しい質感の残る革の財布を引っ張り出して、お札を二枚引っ張り出す。
「ありがとう、大事に使うわ」
「どーいたしまして」
これまたやっぱりゴーストタウンで見つけたらしい、金持ちのおばさんが持つような派手な豹柄のサイフに、二万円を大事そうにしまう彼女は、どことなく嬉しそうに見えて、なんとなく自分も幸せだった。幸せだった、けど。
「誰が水着コンテスト出ていいなんて言ったんだよぅ!!」
「花が」
「言ってねぇよぅ!つーか、あの二万円ってもしかして」
「大事に、使ったわ」
「えええ!!!」
「天鳴さんが、涙目で、一緒に出てって、言うものだから」
「ゆうじ何やってんだよー!」
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